日本人の演奏家はとかく小手先が器用で,なにがしかのコンクールに入賞しよう物なら(優勝でなくとも)難曲の録音をしたがる.ピアニストでデビュー録音がリストの超絶技巧練習曲集というのも珍しくない.ヴァイオリニストならバッハの無伴奏だ.このパガニーニの奇想曲集もそのなかのひとつ.
ところが,こういった難曲は駆け出しの演奏家が弾いても痛々しいだけだ.この録音がリリースされた当初,そのような録音の一つだと思い込んで,しばらく聴かなかった覚えがある.ところが五嶋みどりの才能はそのような半端なものではなかった.
実はこのパガニーニの24の奇想曲は難曲中の難曲で,まともに弾くことすら出来ないヴァイオリニストも少なくない.ピアノで言えば,ラフマニノフのピアノ協奏曲3番のようなものだが,ラフマニノフのように物理的に指が届かないという訳ではなく,本当に難しいのである.左手で弦をはじきながら右手で開放弦を弾くなどと言う信じられない技法が登場する.実際にこの曲集の全曲録音は本当に少ない.
五嶋みどりはこの難曲を,余裕を持って弾ききり,その余裕の中で自分の表現が出来ている.これが18歳の録音なのである.
パガニーニは職人気質の人で,自分の技術を発揮できる曲が無いので自分で作曲までした奇跡の人だが,その気質故,楽譜が人に渡るのを極端に嫌った.この奇想曲は珍しく出版を許可したのだが,それは「どうせ弾けないだろう」という気持ちがあったのではないだろうか.
しかし特に有名な24番は難しさだけではないメロディーの美しさで,多くの作曲家までを触発し,この主題を使った曲がたくさん作られている.
ところで,この曲集のすさまじさを感じるには,映像があった方がいいと思うのだが,さすがにこの演奏を映像化した人は私の知る限りではいないようだ...

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