ZENPH 55年ゴールドベルク再演の衝撃

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ZENPHによる55年の演奏の再創造

なんという驚くべき技術であろうか.ヤマハの自動演奏ピアノの技術は有名である.最近は,ピアニストの演奏をそのまま数値化して,ネットワークを通じて離れた場所で再現する所まで来ている.この技術は家庭用に,MIDIファイルをそのまま演奏する,Disklavierブランドでお馴染みだ.ここではその10倍の精度で演奏するDisklavierProが使用されているが,今回はさらに,ドイツのゼンフ・スタジオが開発した,ピアノ録音から,タッチの強弱やペダルの踏み込みの深さまで数値化する,その名もゼンフ・プロセスがグールドの演奏を再現したのである.

ハイデフ・コンテンツをPS3で視聴するこのシリーズにおいて,今年もっとも期待していたSACDがこれである.グールド生誕75周年,没後25年の記念として企画された.ZENPHプロセスにより,グールドの55年の演奏を詳細に数値化して,ヤマハのDisklavierが自動演奏を行った.

録音された場所は,残念ながら30番街のCBCスタジオは無くなってしまったため,グールドに由縁の深いトロントのスタジオで行われた.またピアノも当時はスタインウェイであった事が今回との「違い」で,ピアノの調律もグールドと実際に仕事をしたヴァーン・エドクイストが監修をしている.

このSACDには,5.1ch,2chのSAトラック,そしてCDトラックにはバイノーラル録音という野心的なトラックが記録されている.バイノーラルというのは,実際にピアノを弾いている状態で聞こえるように録音されていて,通常は左側が高音なのに対し,左に低音が来ている.また通常はピアノの演奏者から見て右奥から聞く感じなので,少し低音は奥に聞こえるのに,バイノーラルでは左右が同じバランスで聞こえる.

おかげで,帰宅してからオリジナルのCDと合わせて4回もゴールドベルクを聴く羽目になった.Disklavierのテクノロジーでは,ハンマーが打弦するタイミングを100万分の1秒単位で,また速度,ダンパーの位置,キーをタッチする角度に至るまで数値化されているということで,私の耳では違いは判らなかった.

其れも当然の話で,データ作成時に,55年の実際の録音を同時に別トラックで再生して,音のずれやタイミングを完璧なまでに一致させたというのだから,私のような素人に判るはずもない.

この演奏に対し,「演奏の意義」だの,「違い」探しにやっきになるような評論を多く眼にしたが,無意味なことだ.いまそれを可能にした「技術」と,「情熱」と,グールドに対する「敬愛」があり,それを成したのである.非常に臨場感のある優れた録音で,まさにグールドのタッチを実感できることは,幸せなことではないか.

モノラルのオリジナルの方が若干タッチが強く聞こえるのは,録音が平板なせいかもしれない.今回の録音を聴くと詳細なグールドのタッチ,演奏意図が明らかになっていると思う.このような再演技術が,ピアニストの生の演奏や,録音に取って代わるものとは思わないが,「第三の録音」としての意義はあるだろう.

願わくば,1960年モスクワ音楽院におけるリヒテルの「熱情」を「再演」してもらいたいものだ.

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このページは、silentseaが2007年3月23日 19:44に書いたブログ記事です。

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