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奉教人の死

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奉教人の死(芥川龍之介)

わたくし本人をご存じの方にはなかなか信じて貰えぬ事ながら,時として負の荷電に心が満たされ,鬱状態が続くことが間々ある.その様なときにはこの短編を読むことが多い.同じ閃輝暗点に悩まされた仲でというわけではないが,芥川のこの短編は,反応が鈍くなる負の状態でも何某かの働きかけを心にしてくれる.

あらすじは,村の娘が不義の子を産む.娘は相手は美形の修道士「ろおれんぞ」だと嘘をつく.このため「ろおれんぞ」は修道院を追放され,乞食に身を落とす.あるとき娘の家が火事になり,その子供が家に残された.どこからか「ろおれんぞ」が現れ,子供を救うが死んでしまう.村人は「やはり我が子」と言うが,娘は凄絶な「ろおれんぞ」を目の当たりにして,本当は隣家の男が父親だと真実を告白する.村人が「ろおれんぞ」を弔おうとしたとき「ろおれんぞ」が女であったことがわかる.

さてこれは果たして信仰を賛美する物語なのであろうか.「ろおれんぞ」は宗教を捨てているのである.ならば「無償の愛」なのであろうか.何も語らず敢えて汚名を受けたのは,娘のためになっているだろうか.むしろ自ら「如何に生きるか」という,自らの自己確認のように思われる.子供を救ったのもその自己を貫いたための犠牲に報いたように思われてならない.

生きるために何かをするのでも,何かをするために生きるのでも無い.ただ「如何に生きるか」その一点のみに人生を収斂させているのだと思う.その凄絶な「生」が,負に傾いた私の心を引き留めてくれるのである.生きる目的も,理由も何もない.ただ「生き方」にのみ意味があるとは,なんと険しい生であろうか.

「奉教人の死」
芥川龍之介著
新潮文庫
ISBN4- 10-102504-5

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