地獄の黙示録

地獄の黙示録(完全版)/Herald
連休でもなければこんな長い映画を見る気にならないだろう.それ以前に私はこの映画には長らく食指が動かなかった.何故なら「戦争映画に名作無し」というのが,私の基本的スタンスだからだ.戦争という人類的な犯罪をいかに描くにしろ,それはどうしても偏らざるを得ない.しかし,この犯罪的行為の責任の所在は,勝者敗者に拘わらず等しく負っているのだ.
この映画を見たきっかけは,テレビを見ながら何か時間をつぶせないかザッピングしていた時,何となく惹かれ,いつの間にか見入ってしまい,途中でそれがコッポラ監督の地獄の黙示録だと気がついたのである.興味がない人間を引きつけるような「何か」がこの映画にあったということだろう.
見ていて思ったことは台詞の字幕が不自然なこと.そして時々何かからの引用がありそうな感じがしたのだが,海外文学にそれほど造詣のない私では,なかなか原典にまで思い至らなかった.そこで出会ったのが,現代日本における知の巨人,立花隆氏のこの本である.

解読 「地獄の黙示録」/立花隆
この本は立花氏らしい詳細な分析が行われている.作成当時の逸話から始まり,公開当時のカットされた部分の意味,そして完全版における監督の「意図」の明確化,台詞の意味から引用の内容に至るまでそれこそ信じられないような分析が行われている.
詳細は是非読んでいただくとして,ようは結局立花氏はこの映画に,このような解説本を書かずにいられないような魅力を感じたと言うことだ.また別にこの映画に対する批評や,評判が正しくなされていないことへの憤りもあったようだ.
80年にこの本の元になる論文が発表され,その後字幕スーパーが論文の批判を受け入れ訂正されたらしい.従って現在のDVDなどの字幕は,こういった訂正が反映されているのだろう.それにしても「不完全だからこそ,長く議論される」というのは,相変わらず氏の批判は手厳しい.
時間が許すなら,公開版を見て,この完全版を見て,この本を読み,もう一度完全版を見ることをお薦めする.ここまで理解されるなら,監督冥利につきるというものだろう.