EROICAの名演

Mravinsky / Beethoven : Symphony No.3 "EROICA"
ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」.この曲は交響曲というジャンルにおける巨大な分水嶺となっている.この曲以前とこの曲以降で,交響曲は大きく姿を変えている.それは曲の規模,型式,オーケストラの配置や,楽器の構成にまで及ぶ.バッハ,ハイドン,モーツァルトに至る黎明期を経て,交響曲は大きく変貌を遂げたのである.
曲のすばらしさをいまさら云々しても仕方がない.しかし,もし初めて聴いたエロイカがこのCDだったなら,それは気の毒なことである.言わずと知れたムラヴィンスキーとレニングラード・フィル(現サンクトペテルスブルク・フィル)の白熱の演奏である.
これがこの曲の王道かと言えば,やはりフルトヴェングラーなどがやはり正統派なのであろう.しかし,すさまじい推進力とキレのある演奏は爽快で,かつ手に汗握るような緊張感がたまらない.幾多のエロイカの演奏を聴き,いまだこの録音を聴いていないなら,是非お勧めしたい演奏だ.勿論好き嫌いは有るかも知れないが,そのような好悪とは別次元の凄みは感じてもらえるだろう.
改めて見てみると,カラヤン,ベーム,ヴァント,朝比奈それぞれ複数の録音があり,さらに何人かのCDもある.我が家のCDの中で,同じ曲の録音で最も枚数が多いのはこの曲に違いない.
朝比奈/新日本フィル
そして何よりエロイカの録音で外せないのは,朝比奈/新日本フィルによる,1988年からの一回目のチクルスにおける演奏である.1989年2月,昭和の終焉を告げる「葬送行進曲」は,朝比奈自身生涯最高の演奏と呼ぶものになった.敬愛した昭和天皇を悼む切々たる悲哀の中に,明治生まれらしい決然たる別れを描き素晴らしい演奏となった.
実はこの演奏こそ私が朝比奈を聴くようになったきっかけなのである.実は実際には聴いていないのだが,新聞各紙で絶賛され,慌ててその後のチケット求めやっと第5を聴くことが出来たという,思い出にのこる演奏なのだ.フォンテックの録音は平板で,まるでモノラルのような感じがするが,雰囲気を感じるには充分だろう.第九の時もこの興奮が聴衆の中に残っているようで,この時のチクルスは本当に素晴らしい物になった.
ここに紹介した録音は奇しくも対極に位置する二枚のようであるが,何度も言うように音楽に一つの解など無い.
Evgeni Mravinsky / Leningrado Philharmonic 1968.10.31 VDC-25032
朝比奈隆 / 新日本フィルハーモニック 1989.2.5 FOCD9001/7