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カザルスの遺したもの

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ホワイトハウス・コンサート

スペインが誇る二人のパブロは,ほぼ同じ時期に生まれ,同じ年に死んだ.一人は近代絵画の巨人ピカソであり,もう一人はチェロの近代的奏法を考案し,独奏楽器として認めさせ,バッハの死後初めて無伴奏チェロ組曲を全曲演奏した,パブロ・カザルスである.

19世紀後半から20世紀にかけてスペインに生まれた芸術家は政治と無縁には成り得なかった.それが芸術家の生涯として幸せだったかどうか判らないが,その芸術性の深化になにがしかの影響を与えたのは間違いのないことだろう.

このCDはホワイトハウスで催されたコンサートの録音で,当時の主はケネディである.折しも1961年,キューバ危機の始まる前年のことで,ソ連との緊張が高まっていた.1938年以後,公の場で演奏することを止めていた彼が,敢えて招請に応じたのはその辺のことがあった物と思われる.

最後に演奏されたカタロニア民謡鳥の歌を演奏する前に,かれはよくこういっていた.「カタロニアの小鳥たちは,大空に舞い上がるときピースピースと鳴くのです」.

この人以前のチェロの独奏を聴いたことがないので,どれほども違い,なにによってチェロが独奏楽器として認められたのか,あるいは何故彼以前は独奏楽器として認められなかったのか解らない.しかしこのチェロの巨人のもう一つの功績は12歳の折りに発見したバッハの無伴奏組曲を世に送り出したことである.

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無伴奏チェロ組曲

バッハの無伴奏組曲が長く忘れられていた理由には,チェロという楽器の発達の遅れも関係したと言われている.つまりバッハの楽譜がチェロを想定していた事は解るのだが,巧く弾く方法が見つからなかったのである.

改めて聴くとおよそ垢抜けない,土の香りがするような純朴な演奏である.しかし1930年代の古い録音のせいでくぐもった音の向こうにカザルスのこの曲に対する深い愛情を感じることが出来るだろう.

ホワイトハウス・コンサートで,最初に演奏したのはおなじようにバッハのマタイ受難曲を世に知らしめたメンデルスゾーンの曲である.これは偶然だろうか.

平和を希求したスペインの二人のパブロは偉大な遺産を人類に遺した.我々は彼等の付託に応えているのだろうか.地球上から砲火の音は消えていない.

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