内田光子 Beethoven録音第二弾

Beethoven Piano Sonata 28,29 / Mitsuko Uchida
内田光子はベートーヴェンのソナタを逆から録音している.これは意図があるのか,たまたまそうなっているのか.氏自身の口から語られていない以上,我々はゆっくりしたペースに苛立ちながらも待つしかない.それにしても,と思う.「女性の」などというと,ジェンダーフリー論者に攻撃されそうだが,やはり力強さをそれほど望めない女性のピアニストが,ベートーヴェンのソナタを録音するなら月光や悲愴と言った,比較的弾きやすい名曲から選んでもよさそうだが.
やはり敢えて「選んでいる」のであろう.7月末にリリースされたばかりの28番,29番は非常に思索的な演奏になっている.28番はもともと幻想的な曲で,無窮道あるいは無限旋律で始まる不思議な雰囲気を持った曲である.29番に至っては交響曲的な重厚な構造を持つ大曲である.ちなみに「ハンマークラヴィーア」というのは,「ピアノフォルテ」をドイツ語に置き換えようとしたベートーヴェン自身の造語らしい.
「完全に弾くことが出来るのは50年後だろう」といったのは,ピアニストの腕前を言ったわけではなく,彼が考えていた音にピアノが完成することを念頭にしていたと思われる.もっともピアノの完成とハンス・フォン・ビューローやリストという名人の登場を待たねばならなかったのだが.
内田の演奏は彼女らしい艶のあるしっとりとした演奏で,28番は曲の特徴が際だっている.しかし29番は些か迫力不足というか,内面性にこだわりすぎているようにも感じられた.この曲はどうだと言わんばかりに技巧を見せつけるような,ある種の「気迫」で弾ききってしまった方が複雑すぎる構成を聴き手に飽きさせないように思える.
いずれにせよ内田光子らしいベートーヴェンではあるのだが,もしかしたら彼女は嫌いな物を先に食べるタイプかもしれない?