和声と創作の試みより 「四季」

アーノンクール/イ・ムジチ
かつて日本国内で恐らく最も有名になったクラシック・レコードがある.それが写真左のSACDである.ちょうど団塊の世代くらいの人々には,このジャケットに見覚えのある方も多いのではないだろうか.60年代を通じて,普通の家庭にある唯一のクラシック・レコードという,輝かしい地位を永らく保っていた稀有の存在であった.
イ・ムジチはイタリアの楽団らしい,艶やかに歌うような弦の響きが特徴的な楽団である.この録音は1959年,初代コンマスのフェリックス・アーヨとともに初めてステレオ録音された,二度目の録音である.室内楽団は同窓の学生などが集まって構成し,普通は一代限りだが,あまりにビッグ・ネームになったため,代を重ねて現在に至っている.
私が中学生の時に音楽の時間で聞かされたのも間違いなくこの演奏であるはずだが,今改めて聴いてみると,実に艶やかで,自分の記憶に残っていたテンポよりもゆったりとした演奏だったことが判った.SACD化され2004年に発売された.
右側はアーノンクールとウィーン・コンツェルト・ムジクスの演奏で1977年に録音したものだ.この演奏が発売されたとき,日本では散々の評判だったようだ.それほどイ・ムジチの演奏の信者が多かったのである.古楽器を使い,演奏法まで当時の様式にこだわったこの演奏は曲のイメージを覆すほどのものだったのである.
私の友人が嘗てこの演奏を聴いて,「この曲をこんなに深刻に演奏する意味はあるのか?」とつぶやいたのが,未だに私にとってこの演奏の最高の評価に思える.まるでムード音楽のように美しかったイ・ムジチ盤とは似てもにつかない,厳しい演奏なのだ.
この4つの協奏曲は,実は調性的にも短調の部分が多く,自然の情景をイメージしたもので,メランコリックな情感を描いた曲ではない.といってイ・ムジチの演奏がその価値を減ずるものではない.どちらの演奏もこの曲を楽しめる,すばらしい録音なのである.
Philips/I Musici UCGP-7041
ALDEC/Harnoncourt WPCS-21043