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オリーブの海

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オリーブの海(白水社)

オリーブ・バーストゥは夏休みに自動車事故で死んだ.ある朝,転校してきたばかりで,目立たず,友達の居なかった彼女の日記の1ページを,彼女の母がマーサに届けに来る.マーサは同級生だったが親しく話した覚えもない.しかし,日記には「マーサと友達になりたい,マーサはクラスでいちばん優しい」と書いてあった.

私も全く思いがけないひとから,「あの時のことは忘れない,ありがとう」と,言われたことがある.人生というのはそう云うものなのかもしれない.思いの丈を届けたいひとにはなかなか伝わらず.思いもかけないひとに,密かに感謝されていたりする.

物語は12歳の少女マーサの何でもない夏休みの数日間を淡々と描いているだけだ.何か結論めいた事も,教訓になるような事もない.家族を好きになったり嫌いになったり,ゆらゆらと揺らめく思春期の入り口を静かに見つめている.

事故で死んだオリーブの日記は,マーサの心に微かなさざ波をもたらしたが,それ以上のことは無い.オリーブの死は,同級生のマーサにとっても日常の出来事の中に埋もれてしまう.小さな感傷を残すだけだ.

いま小さな命を簡単に投げ出してしまう.おさない人達にこの事を考えて欲しい.君たちの死は,親しい友人に取ってすら,日常の小さなさざ波に過ぎないのだ.誰にとっても人生は日々生きることがそれ程に苦痛なのである.ひとは二つの痛みを同時に抱えることは出来ないから,ひとの痛みまで抱え込むことはできないのだ.

この本はそういった事を,世をすねたり,諦観したりせずに,淡い色彩で静かに描いている.分かった風なことを云う大人の,役に立たない言葉を百万遍聞くより,どれだけ意味があるか知れない.

大人の人には,子供の頃の様々な出来事が懐かしく思い出されることでしょう.ここに描かれているいくつかのエピソードの全てに,心当たりがある人もいるでしょう.私もそう感じた一人です.海でおぼれそうになったときに,鼻の奥がきな臭いような,色々なものが遠くに見えるような感じ,不意に思いがけないひとから思いを託された時の動揺を思い起こしてください.

オリーブの海
ケヴィン・ヘンクス著
代田亜香子訳
白水社刊
ISBN4-560-02728-5

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