鼻行類
- 鼻で歩き,鼻で獲物を捕らえる哺乳類 - ,第二次世界大戦直後,鼻で歩く一群の哺乳類が南太平洋の島々で見つかった.ダーウィン研究所のシュテンプケ教授が解明した驚くべき動物群とその進化の様相.動物学上,今世紀最大の発見.(京都大学教授 川那部浩哉)
上記は本の帯封の記述である.ちなみに裏表紙側には,各新聞社の書評があり,朝日新聞社の書評では,「戦後,秘密核実験の事故でハイアイアイ群島が消滅したとき,同群島のダーウィン研究所も,中心的研究者だった著者も永久に失われ,本酒が鼻行類に関する貴重な唯一の報告となった.」である.
無論この本はジョークだ.この本が刊行された1987年当時,このように帯封や書評も念入りに準備され,思わず本を手に取った私は,読み終わる寸前までダマされていた.まあ,まだ若かったという事だが.それにしても実に念入りに仕組まれた本で,鼻行類全体の系統図や,学名,解剖図や生態図に至るまで用意され,大まじめに書いてあるのである.
日本ではこの手のジョークが通用するべくもなく,初版以降は帯に冗談だと判るようなコメントが書かれることになった.これは非常に残念なことである.よくよく見ると実は生態図が些か漫画チックな行動を描いていたり,読者が気づくポイントが用意されているのだが,実は解剖学や生物学に詳しい人ほどダマされやすいような工夫もしてあるそうだ.
その後,別の島で生きていた,というような続編も書かれ,その本も持っていたのだが,度重なる引っ越しで失われてしまった.実はこの本も買い直した物で,第八刷である.今もこの本が刊行されているのか知らないが,私の知る「奇書」中の奇書である.
本来なら,ここは著者の意を酌んで,実際の話の様に紹介すべきであったのだが.ネット・ハビタットにはお節介な住人が居て,「こいつは解っていない」などと言われるのも酌なので,良質のジョークで有ることを敢えて明かして紹介させていただいた.
知的な遊びとしては,非常に上質で,翻訳もあのコンラート・ローレンツの「ソロモンの指輪」を翻訳した,日高敏隆氏と,やはり早川の科学本や,日経サイエンスで翻訳をしている羽田節子氏で,用語や字句も適切な科学用語が使用されている.進化論や動物の生態学に興味のある方は是非本書を探して読んで欲しい物だ.
日本でもこういうジョークを真剣に出来る環境が出来ることを祈ってやまない.
