Beethoven Cello Sonatas

Beethoven Cello Sonatas Rostropovich/Richter
スヴャトスラフ・リヒテルの映像作品を探している方が多いようだ.殊に純粋な音楽以外の事柄に興味がない,というか寧ろそれ以外のことを自分がすることを忌み嫌っていたリヒテルの演奏は,殆どと言って良いほど残されていない.残されていても,このDVDのように共演者がいる場合が多い.
これも共演ものに違いないが,ロストロポーヴィッチとのベートーヴェンのチェロ・ソナタ全集なので,些かも価値を減ずるものではない.チェロ・ソナタという音楽形式はベートーヴェンが始祖に成っているといっても過言ではない.後にブラームスが挑戦しているが,他には殆どめぼしい作品がない.低音のチェロを饒舌なピアノが伴奏するために,曲の構成が非常に難しいためだ.
ベートーヴェンはこの難しさを,両楽器を対等に用いることで解決していると言えよう.この二人は1961年に全曲録音を行っている.映像は3年後の1964年エジンバラにおけるライブ録画で,BBCが放送用に作成した映像だ.
演奏については申し分ない,非常に緊張感のある演奏だ.スタジオで録音した61年の演奏について,二人のスケジュールが合わず,殆ど練習が出来なかったと,後にリヒテルは語っている.それが逆に緊張感のある演奏につながった様に思うが,この映像ではライブ独特の緊張感が,演奏にさらに深みを与えている.録音のバランスも良く,白黒の粗い映像だが会場の雰囲気が良く伝わっている.
このDVDには,他に録音がリリースされた形跡のない,メンデルスゾーンの変奏曲集が併録されている.固定カメラの映像なので,まるで会場で見ているような雰囲気がある.こちらは1966年モスクワでのライブのようだ.

Live at ALICE TULLY HALL 1970 Oistrakh/Richter
さてリヒテルの演奏の映像としてもう一つは,このオイストラフとの共演である.ベートーヴェンとブラームスのソナタだ.この二人で全曲を録音して貰いたかった.ここでのリヒテルは非常に控えめに,敬愛するオイストラフの伴奏を務めている.
他には,1976年のモスクワ音楽院でのリサイタルがあり,こちらはまだ手に入れていない.かつてLDで発売された,ブランデンブルグの5番と同じくバッハのピアノ協奏曲も出ている.恐らく演奏の映像作品は現状ではこれが全てではないだろうか.
テレビで放映されたものとしては,プロジェクトXのヤマハ編,そして1984年に東京文京区の蕉雨園という明治時代の宮内大臣田中光顕伯により建設された建物で,恐らく一部の関係者を集めて行われたリサイタルの映像がある.
この映像は,NHKのクラシック・ロイヤルシートというシリーズで,「幻の東京リサイタル」というタイトルで放送された.曲目はハイドンのニ長調とロ短調のソナタ,ドビュッシーの前奏曲集第一巻,そしてアンコールに同じドビュッシーの映像から,「水に映る影」が収録されている.冒頭では鎌倉を散策する姿なども収録されており,リヒテルの貴重な映像と言えよう.
しかしながら,ベートーヴェンのソナタや,バッハの作品のリサイタルなどの映像が殆残っていないのは残念だ.



