奇跡的名演 - クライバーのミュンヘン・ライブ -
クライバーのミュンヘンライブ盤
名指揮者,名演奏家と呼ばれる人には,伝説的な「名演」がある場合が多い.先に書いたリヒテルのモスクワ然り,後に書くこともあろうフルトベングラーのルツェルン然りである.そしてクライバーのこの2枚のライブ盤こそは,ベートーヴェンの4番(左)と7番(右)という,ともすれば小品扱いされそうな2曲の価値を変えたとも言える,神懸かりの名演なのである.
この演奏は1982年5月3日,ミュンヘン国立劇場で行われた.オケはバイエルン国立管弦楽団で,カール・ベームの追悼コンサートとして開催されたコンサートである.この公演は図らずも歴史に燦然と輝き,カルロス・クライバーの名を神話的なレベルにまで高める演奏となった.
この4番と7番はどちらが先に演奏された物かは不明だが通常のプログラムなら4番が先であろう.4番はLPレコードの時代から発売されており,7番は長らく発売されていなかった.とにかく4番は論外の名演で,全くこの曲のイメージが変わったと言って良い.
ベートーヴェンの交響曲はむしろインテンポでどっしりとした朝比奈のような演奏が好みだが,この録音におけるクライバーのタクトは疾走するようである.あまり名オケとは言えないバイエルンの楽員は,時に破綻寸前に追い詰められるが,そのような些細な失敗はこの際全く問題にならない.
3番,5番というあまりにも偉大な名曲に挟まれ,可憐な小品と思われた4番に文字通り命を吹き込んだ最初の演奏であろう.クライバー自信も「心霊に導かれた」と書いているとおり,奇跡としか言いようがない.
7番が当初発売されなかったのは,クライバーの承諾が得られなかったからだと思われる.あの疾走する4番の後で,あまりに7番は重すぎたのだろう,4番以上にオケは追い詰められ,やや破綻している箇所もある.しかし,このコンサートの雰囲気はやはりそれ以上の価値がある.
国内のコンサートでも,これ以後4番と7番の組み合わせは定番になった.そして演奏スタイルも変わったように思われる.交響曲を聴き始める人が,この2枚から入るのはどうかとも思うが,何れにしろクラシック音楽史上において,語らずにすませられない名演中の名演である.