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Beethoven Piano Sonata No.23 "Appassionata"

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リヒテルの録音3種(拡大)

「この曲の後に演奏する曲はない」とリヒテルは言い切っている.彼はベートーベンのソナタの中でも,特にこの"熱情"を特別な曲と考えていたことは,間違いのない事実である.私の知る限り,彼は4度録音を許している.そのうち,現在発売されている3種が写真のCDである.

突然,リヒテルの熱情が聴きたくなり,ついでに手元にある全てのCDを聴いてみた.冒頭に書いたリヒテルの3種,バックハウスの全集(1960年),アシュケナージの1978年40代の録音である.ギレリスの録音を持っていなかったのは意外だった.

バックハウスの演奏は,まさに楷書的な演奏で,重厚で微塵もテンポが揺るぐことのない見事な演奏だ.アシュケナージは彼らしいロマンティックな演奏で,ベートーベンが描いたコントラストを見事に表現している.意外だったのは解釈がリヒテルに近いこと,これはやはり両者が旧ソビエト出身であることに関係があるように思われる.ロシア的解釈,あるいは奏法があるのではないだろうか.

さてリヒテルの3つの録音だが,写真右が最も早い時期1960年6月9日モスクワ音楽院でのライブ,中央はアメリカ・デビューを飾った直後やはり1960年のRCAへの録音,写真左は1992年アムステルダム,コンセルトヘボウにおけるライブである.実はRCAにおけるスタジオ録音の前に,ニューヨークでライブ録音しているが,このときリヒテルは緊張のあまり安定剤を飲むなどし,最悪のコンディションだったらしく.代わりにスタジオで録音したのである.

長いこと,このRCA録音が彼の最高の演奏と考えられていた.事実,第三楽章のコーダにおける燃焼は,他の追随を許さない見事な演奏である.しかし,彼自身が「一番出来がよい」と言っていたのがモスクワでのライブなのだが,ソビエトでの録音が西側に流れることは無かったため,確認する事が出来なかった.その後ソビエトの崩壊によって,外貨を稼ぐ貴重な資源として,多くの歴史的録音が発売される事になった.この録音もまさにそうして世に出たものだ.

この演奏を改めて聴くと,RCA録音がやや冷めた演奏に聞こえてしまう.雷鳴の様な第一楽章から,すさまじいスピードで弾かれる第三楽章まで,聴き手の身じろぎも許さないような緊張感.惜しむらくは当時のソビエトのお粗末な録音技術ではあるが,BMGの20ビットリマスタリング技術により救われている.

92年の演奏は,60年代の演奏と比べ,テンポはかなりゆったりとしたものになり,深みを増した演奏になっている.しかし,どれかを選ぶなら躊躇無くモスクワ・ライブであろう.感情的な盛り上がりに任せた情緒的な演奏などではない.精神と技術の全てを燃焼し尽くし,白光を放つほどに熱したその先に生まれた芸術なのだ.この演奏を生で聴いた人々が羨ましい.

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