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ピアニストの試金石 - 平均律クラビーア曲集 -

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リヒテルによる全曲集3種(拡大)

-平均律クラビーア曲集,あるいは全ての全音と半音を長3度,つまりド・レ・ミにも,短3度,つまりレ・ミ・ファに関しても,それに基づいた調性を用いて作られた前奏曲とフーガ集.音楽を志す若き人々のために役立つように,そしてまた,既にこの学習に熟達した人々の特別な楽しみのために.現アンハルト・ケーテン公の宮廷楽長であり,その室内楽団の監督であるヨハン・セバスチャン・バッハがこれを起草し完成す.1722年.- (バッハ自身による平均律クラビーア曲集第一集の表紙書きより)

シュバイツアー曰く,「バッハは終焉である.バッハの後には何も発せられない,何故なら一切がバッハを目指して進んできたものであり,バッハに収斂しているのである」.

バッハという人は,あらゆる楽器の演奏家に対し,このような挑戦ともとれる曲集を残している.チェリストにとっては無伴奏チェロソナタであり,ヴァイオリニストにとっては無伴奏ソナタとパルティータである.またオルガニストには巨大なフーガと前奏曲集があり,鍵盤楽器のために残されたのがこの平均律クラビーア曲集であり,ゴールドベルク変奏曲集である.

これらの曲は,バッハの表紙書きの通り,技術的には学習書として最適なものとなっているが,「熟練した者」にとっては「特別な楽しみ」になるような曲群なのだ.「特別な楽しみ」というのが曲者で.実は「プロ」がこれを芸術として弾く場合の難しさは半端なものでは無いだろう.

平均律クラビーアに関して言えば,一曲あたりはほんの数分で,24の調性について一曲ずつ,前奏曲とフーガによる構成で,第一集,第二集併せて48曲からなる.曲が短いので,演奏者がかってにテンポを変えたりすることは許されない.その中で深遠な精神性を表現するのは至難の業だ.もちろん技術的に破綻しようものなら,「初心者の練習用」というバッハの容赦ない鞭が待っている.

※平均律とは何か,興味のある方は,ネット検索してみるといいだろう.このテーマだけで一大論文が書けるので,詳細はそちらに譲ろう.

20世紀最高のピアニストの一人と言っても過言ではないスヴャトスラフ・リヒテルは,2度にわたり全曲録音している.最初の録音は1970年から1973年の3月に掛けて,ザルツブルクのクレスハイム宮殿で録音されたもので,2度目は1973年の6月と8月にインスブルックでライブ録音されたものだ.

右側は長く日本国内で売られていた最初の録音で,国内にあるマスターからプレスしたものだ.真ん中のRCA盤は,このマスターのオリジナルに当たる録音で,もっとも状態が良いとされているものだ.左側が2度目のライブ録音になっている.

リヒテルは繰り返し,一回目の録音の第二集の録音状態についてこぼしている.特に変ホ短調(第8番)と嬰へ短調(第14番)は最悪だと言っている.おそらく気がかりだったに違いない.体調を崩してから,「後進のために」と言うことで,発売を許可した録音の中に,2度目の録音が含まれていた.

国内のマスター盤に比べれば,RCA盤は比較にならないくらいマシだが,リヒテルの答えは2度目の録音にあったのだろうか.機会があれば是非聞き比べていただきたい.

ベートーヴェンのソナタや,協奏曲でリヒテルが見せる巨大なピアにズムとは違う,繊細かつ厳格な芸術性を垣間見ることができる.そしてその両面性こそがリヒテルなのである.

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コメント

写真左のインスブルックにおけるライブ録音はJVCからリリースされた物ですが,最近オークションで¥30,000近い高値がついていました.リリース直後に回収されたとか.今中国で売られているらしく.話題になっています.

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