”指輪”を聴きますか? - ニーベルングの指輪 -
指輪のCDとDVD
貴方は”指輪”を聴きますか?その勇気がありますか?指輪と言っても指輪物語ではありません.ワーグナーのあの「序夜と三日間の舞台祝典劇」<<ニーベルングの指輪>>です.もっとも基本となる神話は同じような内容ですし,どちらも長くて,読み通すのも聴き通すのも大変な忍耐が必要です.バッハのマタイ受難曲は長大な作品ですが,”指輪”とい比べると可愛い物です.
バッハの作品は工学的な,あるいは建築学的な彫琢が施された音楽と言えますが,ワーグナーの"指輪"は哲学的な音楽と言えます.ある意味では,音楽に神学的な解釈が行われるブルックナーの交響曲に血胤の近さを感じます.
長大といってもご存じない方にはピンと来ないでしょう.”指輪”は4部作で,<<ラインの黄金>>(一幕四場 約二時間三十分),<<ヴァルキューレ>>(三幕十一場 約四時間),<<ジークフリート>>(三幕九場 約四時間),<<神々の黄昏>>(序幕と三幕十一場 約四時間三十分),合計約15時間に及ぶ作品です.
そして,更に聴き通すことを困難にしているのは,この音楽の形式です.”指輪”は他のワーグナーの作品同様,オペラでは有りません.第一オペラの華である,アリアが有りません.美しい旋律に載せて歌い上げるような場面は皆無です.
おまけに登場する人物はおろか,「指輪」,「槍」といった小道具から,「不機嫌」,「憎悪」といった感情に至る全てのアイテムに,ライトモチーフ(指示動機)という,旋律(テーマ)が与えられており,それらのアイテムが登場する度に何処かでそのテーマが鳴り響きます.
例えば怒りながらヴォータンが「指輪が...」と言うと,「怒り」と「ヴォータンの不機嫌」と,「指輪」のライトモチーフが音楽を構成します.当然,ある程度,「このライトモチーフは何を意味しているのか」が判らないと,音楽の全体像をとらえることが出来ません.
写真の左側は,名盤の誉れ高いショルティの録音ですが,この日本盤には「ライトモチーフ集」という付録CDが着いています.なんとこの付録が3枚組で,本編と併せて17枚組です.ライトモチーフには,合成モチーフという物があり,複数のモチーフが組み合わさって別の意味を示す場合もあり,全てを合わせると221種類に及びます.
さらに歌と言っても,実際には原稿用紙何枚にも及ぶ長い長い台詞が,先に述べた複雑な音楽に合わせて語られるので,よほどの根気が無ければ聴き通すのは困難です.さらにさらに,話の内容が難解な上に,結末においてワーグナーは台詞(歌詞)による説明を放棄し,朗々と鳴るオーケストラの響きで全てを覆い隠しています.
では何が良いのか?と言えば,聴き手の我慢が限界点に達する頃に,スカッとするワーグナーらしい旋律が現れたり,美しい歌声が(少しだけ)現れたりする所と,4部作全体を一つの作品として捉えられるように成ったときの達成感でしょうか?抽象的になりましたが,私もまだまだ理解の途上です.
ちなみに冒頭の写真は,左からショルティ指揮ウィーンフィル(CD),ベーム指揮バイロイト祝祭管弦楽団(CD),サヴァリッシュ指揮バイエルン国立歌劇場管弦楽団(DVD)です.他におすすめできるのは,CDならカラヤン指揮ベルリンフィル,DVDならブーレーズ指揮バイロイト祝祭管弦楽団,レヴァイン指揮メトロポリタンでしょうか.レヴァイン盤は伝統的な演出で,現代的な演出に辟易している方にはお勧めできます.レヴァイン・メトの最近のけばけばしい下品な感じはあまり無いようです.