香箱組んで昼寝して(5) -猫医者選び-
医者選びは人間のみならず,ペットにとっても重要な問題だ.早期発見ができれば助かる病気も多いし,治療によるペットの負担も,飼い主の負担も軽減できる.何よりパートナーの苦しむ様子を見なくて済めば,それに越したことはない.だからこそ,良い医者をみつけることは大切なことなのだ.
私がぴしゃーまを最初に連れて行ったのは,S病院.院長は学会に症例の発表をしたり,論文を発表したりしている方で,丁寧な診察をしてくれた.
予防接種や,下痢などでお世話になったが,行くと目的の治療の前に,両眼の眼瞼,口腔内,歯茎,舌の裏,耳を確認し,丁寧に腹部を触診し,検温をしてくれる.
これは非常に重要なことで,猫に多い病気の初期症状をほとんどカバーしている.特に口内と腹部は重大な疾患の兆候が出るので,必ず確認してもらいたいものだ.
ところが,2年ほどして件の医師が忙しくなったのか,偉くなってしまったのか,ぴしゃーまの担当が若い医師に変わってしまった.するとどうだろう,こちらが言い立てた症状,部位しか看てくれない.一応看るようなそぶりは見せるが,大きく口を開けさせることもないし,まして唇を上げて外側の歯茎は見ないし,全体に「とりあえず覚えた手順をこなしている」という雰囲気が伝わってくる.
難しい症状では判断がつかず,いちいち奥にお伺いを立てている.むろん誰もが一朝一夕に名人上手になるわけではない.マイケル・ジョーダンもイチローも新人時代があったのだ.しかし,言われたことをやるのと,問題意識を持って自発的に行うのは少し違う.残念なことに,多くの場合これは「生まれ持った資質」に依存している.仕事だろうが趣味だろうが,「問題意識」を持つ人と,「なんとなく」やってしまう人がいる.
例えば,同じ塗り物の職人でも,後世に「美術品」として伝えられる物を作る人と,あくまで「実用品」の大量生産をする職人の違いのようなものだ.起点になるのは技術の差ではない.むしろスタート時点の技術の差など僅少なものだろう.差がつくのは「意識」の違いだ.
医師においてこの違いを見分けるのは難しいが,私の経験で言うと,一つの症状のみをとらえて診断を下すタイプは後者のタイプと見てよいだろう.良い医師は症状を足し算ではなく引き算で確認する.疑わしい病気の中から,「この症状が無ければこの病気ではない」という具合に消去法で診察する.従って,問診は「こういう事はありませんか?」という質問になるのだ.
「のどが赤い」→「風邪」ではなく,「のどが赤い」→「熱はない」,「扁桃腺は腫れていない」,「目の充血はない」だから「風邪しかない」という具合だ.このように簡単な症状で見分けられるほど日本の医師のレベルは低くない,あくまで例としてとらえて欲しい.
いずれにしても,良い医師に巡り会いたいものだ,人も猫も.